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さがや
新潮社 森田様

今回は新潮社の出版部で村長の担当をしていらっしゃる、森田さんにお話を伺いました。
―― 村長の担当をされてからどれくらいになられるのでしょうか?
5年ほど前に、「新潮」の編集部に異動になって、その時から担当させていただけることになったんです。それまで出版部にいましたが、そちらの方には長く担当させていただいている編集者がいたので、ファンと言うか愛読者として、本を読ませていただいたり、芝居を見せていただいたりしていました。
雑誌へ行って、実際の担当をさせていただけることになって、張り切ってお目にかかったのですが、その頃は小説を数多く書いていらっしゃる時ではなかったので、なかなか書いてただけなくて、残念に思っていました。
ですので、昨年『劇場の神様』を読ませていただいた時はほんとうにうれしかったです。その上、この作品を(「新潮」の)8月号に掲載させていただいた後、また異動になり、出版部に戻って、ご本も担当させていただけることになり、幸福でした。
―― 掲載と単行本、両方のご担当になるというのは珍しいことなんですね。しかも念願の小説だったと。村長の第一印象はいかがでした?
素敵な方だ、と思いました。月並みな言い方ですけど。繊細でありながら、神経質でなく、暖かいですよね。すごく真摯なところが、ユーモアの中から伝わってくるところも素敵だと思います。
―― なるほど。読者として、また編集者として村長の作品の愛読者だった森田さんですが、作品をお読みになるとき、読者としての立場と編集者としての立場があると思うのです。言い方はヘンですが、その使い分けのようなものはありますでしょうか。
私の場合は、読者としての立場と編集者としての立場とは基本的にあまり違いはないです。読者として歓迎するものは、編集者としても歓迎するという感じです。
「劇場の神様」も読者として、とても面白く読み、「新潮」に掲載したいと思い、ご本にもさせていただきたいと思いました。
―― 今回の作品は、村長も大変お気に入りの作品になったそうです。お父さまのご病気など、執筆中にもいろいろありましたが、編集されているときに何かエピソードのようなものがあれば教えてください。
はじめに読ませていただいたとき、途中で止めることができなくて、一気に読んで、感動しました。劇場の雰囲気、役者たちの気迫が、その場にいるかのように伝わってきて、どきどきしながら読みました。でもあまりにも面白い小説なので、「新潮」に掲載するには、面白すぎるのではないかと、まだ「新潮」の編集者としてのキャリアは浅かった私は心配したのですが、編集長もすごく気に入ったので、うれしかったです。
―― 先日『劇場の神様』刊行記念の朗読会がありましたが、どのような経緯で開催することになったのでしょうか。とても急でしたよね(笑)。
原田宗典アワーや朗読会を拝見させていただいていて、原田さんの本を出させていただいたら、朗読会とサイン会を合わせてやらせていただけたらいいな、と思っていました。
昨年12月1日に、私が以前本を作ったバリー・ユアグローというアメリカの作家が来日して、青山ブックセンター本店のホールで朗読会をやったのですが、そのホールと朗読会が良かったので、青山ブックセンターの担当の方に、営業の者から企画をお伝えしてみましたら、本店の方は大分先まで、予定が入っているが、自由が丘店の方でも同じようなイベントを企画しているので、そちらでどうですかというお話でした。ただしそちらの方も1月は15日だけしか空いていなかったのですが、原田さんに伺ったところ、その日にやってくださるということだったので、決まりました。
『劇場の神様』の刊行記念ということでやりたかったので、刊行からなるべく近い日にということで、急でしたが、原田さんがすぐに台本を書いてくださり、おなじみのお友達の役者さんもみなさんかけつけてくださり、奥様や大谷薫平さんのご協力もあって、大成功でした。盛りだくさんの朗読会で、お客様もとても楽しまれたようです。
―― 書店のかたも、かなり盛り上がってましたもんね(笑)。
装丁は原研哉さんですね。デザインもすばらしいのですが、紙、特別なものを使用されていますよね?
原田さんのご希望でもあり、私どもも是非と思って、原さんにお願いしました。
原さんは『劇場の神様』を大分前に読んでいらして、正式にお願いしたときには、イメージを固めていらしたようでした。お打ち合わせはナシで、お任せしてほしいということだったので、お任せしました。ただどんなことを考えていらっしゃるのかだけ、伺わせていただいたところ、テクスチュアに凝ったもの、とのことでした。私も“ふかっ”とした本をイメージしていたので、安心して、お待ちすることができました。
その後、原さんはずいぶん色々な素材を試されて、考えて、最後にこの紙に決められたようです。これは羊毛紙と言う紙で、今年の干支でもある羊の毛、ウールが入っているそうです。ピアノの中に使われているフェルトと同じ材質でできた紙で、原さんが特別に作られた紙ということです。印刷もかなり配慮しないと、上手くのらないので、タイトル、著者名、星座の絵は箔押しです。これまで装丁に使われたことはなく、これからもむずかしいと思いますので、その意味でもこの本は特別な本です。
本好きの方たちから、紙についての問い合わせも多く、説明すると、みなさん驚かれます。この手触りはすごいですよね。さすが原さんという感じです。
また、この星座の絵には原田さんとの特別の思い出が込められているそうです。それはやはり原田さんに書いていただいた方がいいでしょうから、お話しませんけど、とてもいいお話でした。
―― あぁ、そのお話、ぜひ聞いてみたいですね。
『劇場の神様』について、担当編集者としてオススメな部分というか、こういうところを読んで欲しい、というところはありますか?
『劇場の神様』は、前にも言いましたようにとても面白い小説なんですが、人が生きてゆく上で、大事なことが、巧みに書かれた小説でもあると思うんです。
盗癖の止まない主人公の一郎は、芝居と言うものを知って、次第に盗みをやらなくなっていくんですが、ふとしたきっかけからまたやりたい気持ちになってきます。でもその企みを実行しようとした一日が、役者である彼にとって特別な体験をする日になる。小説にはその一日の終わりまでが、描かれてあるのだけど、読み終わると、読者は、一郎はもう決して盗みをやらないだろうと、思うんですね。書き方が、素晴らしくて、スピード感とかスリルとかを読者も体験するように読めるので、実感が伝わって来る。とても大事なことを、真剣にやることの喜びの前には、せこいことがとんでっちゃうってことがあると思うんですが、そのことが体験できるんです。
芸術でも、スポーツでも、仕事でもそういう高い波に乗って来てるな、というときは、また何かこの世ならぬものが、背中を押してくるような感じもあると思います。お打ち合わせをしている時、原田さんが、一期一会ということを、話されたので、私も、この小説のコピーに「一度きりの時間」と言う言葉を使わせていただいたんです。
人生は一度きりだ、と言葉でいわれても、当たり前なことのように感じられるだけかもしれないけれど、この小説を読むと、そうだ、この時をとらえなければ、と言う思いが沸いてくる。そういう小説なんですね。だから今までの読者の方はもちろん、少年少女にも読んでもらいたいと、思っています。
表題作以外にも3本の短篇が収録されていて、それぞれとても魅力的な小説なので、お得な本だと思います。
―― 最後に、これからの村長に思うこと、お願いしたことはありますでしょうか?
『劇場の神様』ぐらいか、それ以上の長さの小説をまた書いていただけるといいなと、思います。短篇もエッセイもいつもいいと思いますが、やはり『劇場の神様』ぐらいボリュームがあると、読みでがあって、原田さんの小説の世界を堪能できる、酔える時間が長い、と思います。
原田さんの小説の登場人物は魅力的なので、短篇で終わるともったいないと思うときもあります。長編が読みたいです。
それから今年はお芝居も、楽しみです。色々やっていただくために、お身体を大切にいつも元気でいていただきたいと思います。





