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スペシャル
デビュー作のこと、そして兄、原田宗典のこと
――原田マハさんインタビュー
「考え直せ」と、兄はタイトルに大反対
――デビュー作『カフーを待ちわびて』について、引き続きうかがいます。主人公のひとり明青(あきお)は、純朴であると同時に、少々「頼りない」とも思われます。
ですよね。わたしは、現在取りざたされているいわゆる「ヒルズ族」の人々とは真逆の人間を、描きたかったんです。お金さえ儲かればいいの? ブランド物を身につけていればいいの? 弱者を蹴落としても平気な感覚って、どうなの? そんな疑問に対する反発から、明青は生まれました。こういう男性像はどうですか? という、わたしからのひとつの提案でもあります。ヒルズ族に辟易している人、明青のようなキャラクターに好感をもつ人、わたしの周りにもけっこういましたよ。
――その明青のキャラクターが、沖縄の離島という舞台でさらに生きているように思われます。
ヒルズ族の真逆といったら、舞台は離島かなと(笑)。そういう場所で、生きていくということ。作中、島は開発の波にさらされるわけですが、わたしがそれを否定的には書いていないこともあって、「開発推進・擁護派なの?」という、批判を含んだ意見をいただいたこともあります。わたしは、実はそう。開発を必ずしも悪だとは考えてはいなくて、環境を徹底的に破壊するとか、拝金主義先行とかではなく、島を立ち直らせるための開発だったらありなんじゃないの? という問いかけも、作品を通してしてみたかったところです。
――もうひとりの主人公、幸(さち)の凛とした立ち居ふるまいもまた、印象的です。
幸は実は、「サンダルをそろえる女」ってどんな人物かな? というところからイメージを膨らませていったんです。沖縄で気づいたのが、「脱いだ靴をそろえる習慣がない」っていうこと(笑)。玄関なんてもう、多くの靴やサンダルが入り乱れて大変。みんなの靴をそろえながら、「サンダルをそろえる女」っていいよねと思って、そんな女性だったらどんな性格だろう? などと、幸の肉付けをしていきました。「明青のサンダルをそろえる、幸」という2人の関係を象徴するエピソードは、こうして生まれたんです。
――タイトル『カフーを待ちわびて』はどのように?
これは、すんなり思いつきましたね。サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』も意識して。読んでいただければわかると思いますが、ちょっと逆説的な意味を含んだタイトルでもあります。
――タイトルに関して、お兄さんは当初反対したとか。
「考え直せ」と言われました。デビュー作のタイトルは大事にしろってことなんですね。自分で本当に納得するまでは、考え続けろと。そう言う兄は、後悔しているらしいですが(笑)。デビュー作のタイトルは、プロフィール欄に必ず載るでしょう? 兄の場合は、『お前と暮らせない』。「当時はすごくいいタイトルだと思ったけど、40になってみたら、すごく恥ずかしい」って言ってました。たしかに、ちょっと自分に酔ってる感じがするかもしれない。わたしのタイトルにも、そういう気負った部分を感じたんじゃないでしょうか。結局、最初のインスピレーションを超えるタイトルを思いつかなかったので、変えませんでしたが。最後は兄も折れて、「これでいい」と(笑)。
身近な大先輩、大きな目標
――作家になった実感はありますか?
ひとつ印象深いのが、兄にも同席してもらった丸善でのサイン会のときの出来事ですね。わたしは昔から、兄がエッセイにも書いているように兄のあとを追いかける癖があって。それがサイン会の日、控え室から会場に向かう途中のエレベーターを降りるとき、「今日は君が主役なんだから、先に降りてぼくの前に立て」と、兄が言ってくれたんです。わたしはいつもの癖で、兄を先に降ろしてあとを追いかけて歩こうとしていたんですが。
――その日は、立場が入れ替わった。
もう、すごく感激しましたね。「先に歩いていいんだよ」と、初めて言われた! って。兄の前を歩いて会場に入って、長い列をつくって待っていてくださった方々が拍手で迎えてくれて……。サインをしているあいだも、兄が横で見守ってくれていて。夢のようでした。兄は「ヒマだ……」なんてつぶやいてましたが(笑)。
――作家として、お兄さんから贈られた言葉はありますか?
サイン会と同じ日に2人で新聞社のインタビューを受けたんですが、記者の方に「妹さんに贈る言葉は?」と問われて、兄がこう言ったんです。「いい気になるな、その気になれ」。――うわあ、またいいこと言われちゃったよ、と(笑)。周りの方々が盛り上げてくれていたこともあって実際ちょっといい気になりかけていたかもしれない。水をかけられたように、ヒヤっとした言葉でもありました。
――今後、どのような作品を書いていきたいとお考えですか?
たまたま恋愛小説でデビューしましたが、それだけを書いていくつもりはなくて、兄も時々書いていたようなピリっとした、あるいはドロっとした味わいの作品も書いてみたいという思いはあります。一にも二にも、兄という大先輩がいますから、兄に認められるような作品を書かないと一人前とは言えない。大きな目標ですね。
――今度は村でも、兄妹対談をお願いしたいところですが。
兄はいやがるんじゃないかなあ。わたしも、すごく緊張してしまうと思う。大江健三郎さんと話すよりも、作家としての兄と話すほうが緊張するんじゃないかな(笑)。
2006年6月20日収録
■書籍情報
カフーを待ちわびて
【単行本】宝島社 2006/04 ISBN 4796652124
■プロフィール
原田マハ(はらだ・まは)
フリーランスのキュレーターとして、国内外の展覧会、シンポジウム等を手がける。2004年2月、吉備路文学館(岡山市)で催された『原田宗典展』のディレクションをおこなう。03年よりカルチャーライターとして執筆活動も開始し、05年6月『ソウルジョブ』(角川書店・共著)上梓。05年12月『カフーを待ちわびて』で第1回『日本ラブストーリー大賞』大賞を受賞するとともに、06年3月に同作品を宝島社から刊行、作家デビューを果たす。
オフィシャルサイト『Naked Maha』





